壊れたRCのギアを作りたい [製作編]

2022-03-25 · Tomoki Ikegami

"⚙ 3Dプリンタを使ってRCの歯車を製作 ⚙"

~ 目次 ~


1. 3Dプリントの流れ

 前回でギアの設計が終わったので、今回はギアを実際に製作したいと思います。

 本格的なプラスチック歯車なら、射出成形で製造されている1切削加工で製造している場合もある2)みたいですが、工具と機械をそろえると凄い金額(ノウハウもかなり必要)なってしまいます。

 そこで今回は、3Dプリンタを使ってギアを作ってみます。3Dプリンタを使った方法は付加製造と呼ばれています。

 3Dプリンタにも色々な種類があるのですが、私が使ったプリンタ熱溶解積層方式FDM)の機種です。この方式は、高温で融かしたプラスチックを重ねていってモノをつくるやり方です。

 3Dプリンタでモノを作る流れ(一例)をまとめると、

  1. 3Dデータを準備する
  2. 3Dデータから印刷用データを作る
  3. 印刷用データを使って3Dプリンタで印刷する
  4. 余分な材料を除去する
  5. 完成

 という感じです。

2. 3Dプリント作業の様子

2.1. 3Dモデルの準備

 下の画像は、前回作成したギアの3DCADモデルになります。

完成した3DCADモデル(斜め上から)
☝ 完成した3DCADモデル(斜め上から)
完成した3DCADモデル(斜め下から)
☝ 完成した3DCADモデル(斜め下から)
 

 印刷用データをつくるために、まずはファイル形式を変換します。

 ここでは、FreeCADデータを STL(Standard Triangulated Language)メッシュと呼ばれるファイル形式に変換したいと思います。


STLファイルとは全てのカタチを沢山の小さな三角形の集まりとして表現するファイル形式です。 (RICOH「技術者が語る 3Dプリンターのいろは」3 より引用)

 この作業には Mesh Designワークベンチ を使います。(下図参照)

Mesh Designワークベンチを選択
☝ Mesh Designワークベンチを選択
Mesh Designワークベンチの画面
☝ Mesh Designワークベンチの画面

 Mesh Designワークベンチが起動したらまず、STLメッシュにしたいボディをモデルツリー上で選択します。

STLにしたいモデルを選択
☝ STLにしたいモデルを選択

 次にツールバー(画面上側)で「メッシュ(M)>シェイプからメッシュを作成」をクリックします。

シェイプからメッシュを作成
☝ シェイプからメッシュを作成

 そうすると、パラメータの設定画面が出てくるので「OK」をクリックします。

パラメータの例(サーフェース偏差:50μm 角度の偏差:15°)
☝ パラメータの例(サーフェース偏差:50μm 角度の偏差:15°)

 モデルツリーの一番下にメッシュができます(下図参照)。

(Meshed)と表示されているのが生成したSTLメッシュ
☝ (Meshed)と表示されているのが生成したSTLメッシュ

 元のボディ(FreeCADデータ)と重なっていてSTLメッシュが見ずらいので、ボディを非表示(ツリー上で選択してスペースを押す)にします。(線のないモデルが表示される)

STLメッシュで表現された3Dモデル
☝ STLメッシュで表現された3Dモデル

 表示を切り替えると、たくさんの三角形ポリゴンで3Dモデルが構成されていることが分かります。(印刷するうえではこの作業は不要です)

CADデータからできたSTLメッシュ(斜め上から)
☝ CADデータからできたSTLメッシュ(斜め上から)
CADデータからできたSTLメッシュ(斜め下から)
☝ CADデータからできたSTLメッシュ(斜め下から)

 最後に、STLメッシュをモデルツリー上で選んで右クリックしたあと「エクスポート」をして好きなフォルダに保存します。

STLメッシュのエクスポート
☝ STLメッシュのエクスポート

 このデータは印刷用データを作成するときに使うので、分かりやすい場所に保存しておきます。

エクスポートしたSTLメッシュを保存
☝ エクスポートしたSTLメッシュを保存

2.2. 印刷用データの作成

 先ほど保存したSTLメッシュを使って、印刷用のデータを作っていきます。

 印刷用データを作るために、まずは Ultimaker Cura(以降 Cura と呼びます) を起動します。

 Cura の設定はすでに済ませた状態で、これからの作業を進めていきたいと思います。

Ultimaker Cura の起動画面
☝ Ultimaker Cura の起動画面
起動後の画面(3Dプリンタの中をイメージした空間が表示されている)
☝ 起動後の画面(3Dプリンタの中をイメージした空間が表示されている)

 Cura が起動したら エクスプローラー を起動します。そうしたら、先ほど保存したSTLメッシュをCuraの画面上にドラッグ&ドロップします。

 ドラッグ&ドロップすると、Cura に読み込まれた3Dモデル(STLメッシュ)が表示されます。

画面上側の「File>Open File(s)」で、先ほど保存したSTLメッシュを選んでも同じです。

STLメッシュをCuraにインポートする
☝ STLメッシュをCuraにインポートする
Curaに3Dモデル(STLメッシュ)がインポートされる
☝ Curaに3Dモデル(STLメッシュ)がインポートされる
インポートされた3Dモデル(斜め上から)
☝ インポートされた3Dモデル(斜め上から)
インポートされた3Dモデル(底面のようす)
☝ インポートされた3Dモデル(底面のようす)

 モデルを無事インポート出来たので、次は印刷の設定をしていきたいと思います。まずは3Dモデルを選びます。

3Dモデルを選ぶ(モデルの周りが水色になる)
☝ 3Dモデルを選ぶ(モデルの周りが水色になる)

 3Dモデルが選択できたら、画面右上をクリックして印刷設定をしていきます。(必要に応じてモデルの向きや位置を変更)

 今回の形状なら、サポート材以外はデフォルトのままで問題ないと思います。

 サポート材やその他の設定が反映されたかどうかは、後でスライスをしたときに分かります。

サポート材
印刷時に突き出した部分(オーバーハング)やブリッジの内側などを支える材料です。この材料は完成品には不要なので印刷後に取り除きます。

 オーバーハングやブリッジについてはこちらの記事で分かりやすく説明されています。

印刷設定の画面
☝ 印刷設定の画面
サポート材(印刷時に画像の赤い部分を支える)を有効にする
☝ サポート材(印刷時に画像の赤い部分を支える)を有効にする
スカート(モデル周りに細い線ができる)を有効にする
☝ スカート(モデル周りに細い線ができる)を有効にする

   印刷の設定をすることができたので、最後に印刷用データを生成したいと思います。

 ノズル(画面左側)を選択し、「Slice」(画面右下)をクリックすると、印刷用のスライスデータ(3Dモデルが層状に細かく切られている)ができます。

印刷プレビュー(斜め上から)
☝ 印刷プレビュー(斜め上から)
印刷プレビュー(斜め下から)
☝ 印刷プレビュー(斜め下から)

2.3. 印刷

 印刷中に印刷台から成形品がはがれないように、印刷台に付属のスティックのりを塗りました。(プリンタによっては塗らなくても良いものもあります)

 このときプリンタとPCをUSBケーブルで繋ぎ、電源を入れておきます。

印刷台にのりを塗る
☝ 印刷台にのりを塗る

 プレビューを見て問題なさそうだったので、「Print via USB」を押して印刷を始めます。

印刷を開始ボタンを押す
☝ 印刷を開始ボタンを押す
印刷データがプリンタに送信される
☝ 印刷データがプリンタに送信される

 印刷を始めると、とけたプラスチックが出てくるノズル(Extruder)と、印刷台(Build Plate)の温度が上がっていきます。

ノズル(Extruder)と印刷台(Build Plate)は室温
☝ ノズル(Extruder)と印刷台(Build Plate)は室温
ノズルは186℃、印刷台は60℃と温度が上がっている
☝ ノズルは186℃、印刷台は60℃と温度が上がっている

 印刷中の様子は下の画像のようになります。最初は薄い形状ですが、だんだんギアの形が見えてきて面白いです(‘ω’)ノ

印刷中の様子(まだ薄い形状)
☝ 印刷中の様子(まだ薄い形状)
印刷中の様子(少しずつ厚みが出てきた)
☝ 印刷中の様子(少しずつ厚みが出てきた)
印刷中の様子(完成にだいぶ近づいている)
☝ 印刷中の様子(完成にだいぶ近づいている)
印刷完了(*^^*)
☝ 印刷完了(*^^*)

2.4. サポート材の除去

 印刷した状態では、下の写真のようにサポート材やスカートがついています。

 これらの材料は完成品として使用するうえでは必要ないので、ニッパーやカッターを使って丁寧に取り除きました。

完成品の周囲にスカートがついている
☝ 完成品の周囲にスカートがついている
ギア裏面の空洞部分には、格子状のサポート材がついている
☝ ギア裏面の空洞部分には、格子状のサポート材がついている

2.5. 完成品

 サポート材を取り除いたあとの画像がこちらになります。

 ギアの歯形もきれいに出力されていて感動しました!

 ギア中央部分の穴は少し小さかったので、ドリル(φ5)で仕上げました。

完成品画像1
完成品画像2
完成品画像3
完成品画像4

3. 組み立て

 サポート材などを取り除いたので、実際に組み立てをしていきます。

汚れていたので部品を分解&清掃(清掃前)
☝ 汚れていたので部品を分解&清掃(清掃前)
汚れていたので部品を分解&清掃(清掃後)
☝ 汚れていたので部品を分解&清掃(清掃後)
組み立てる部品
☝ 組み立てる部品
グリスを塗りながら組み立て
☝ グリスを塗りながら組み立て

 ベベルギアのバックラッシを自分で調整(いい感じでギアが回る位置でねじを締めて固定)するのはマニアックな仕組みだなと思いました。( ;∀;)

ベベルギアのバックラッシ調整が終わった
☝ ベベルギアのバックラッシ調整が終わった
リアのフレームにギア一式を取り付けます
☝ リアのフレームにギア一式を取り付けます
スパーギアとピニオンギアのバックラッシを調整
☝ スパーギアとピニオンギアのバックラッシを調整

 メーカ製のギアに比べると偏心が大きいように感じましたが、細かいことを気にしなければ問題なく使えるレベルです!

4. 取り付けた様子

 リアのフレームをシャーシに固定し、タイヤも装着した様子が下の画像になります。

スパーギアとピニオンギアのバックラッシを調整
スパーギアとピニオンギアのバックラッシを調整
スパーギアとピニオンギアのバックラッシを調整

 もう走らないと思ってた旧車が、また走れるようになって嬉しいです!

 ギア一つ作るだけでもたくさんの知識が必要なんだと勉強になりました。

 メーカーさんが作っているラジコンはやっぱり凄い!

5. 関連記事

6. 参考文献


  1. 太陽パーツ「プラスチック歯車の射出成形なら太陽パーツへ」、(https://www.taiyoparts.co.jp/blog/1090/↩︎

  2. 樹脂加工ドットコム「タグ「プラスチック歯車加工」が付けられているもの」、(http://www.jushikakou.com/mt-search.cgi?IncludeBlogs=3&tag=%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%81%E3%83%83%E3%82%AF%E6%AD%AF%E8%BB%8A%E5%8A%A0%E5%B7%A5&limit=20↩︎

  3. RICOH「技術者が語る 3Dプリンターのいろは」、(https://blogs.ricoh.co.jp/3dp/2016/10/3d-31.html↩︎