壊れたRCのギアを作りたい [理論編]

2022-02-23 · Tomoki Ikegami

"⚙ ラジコンの歯車設計に関するメモ ⚙"

~ 目次 ~


1. きっかけ

 古い1/12カー(Tamiya RM Mk.5Tamiya RM Mk.7)を屋外で走行させていたところ、後輪を駆動するスパーギアが破損して走行出来なくなってしまいました。

 かなり昔の車体なので部品の入手が難しく、どうしようか困っていました。

後輪駆動部分(ダイレクトドライブの構造になっている)
☝ 後輪駆動部分(ダイレクトドライブの構造になっている)
分解してスパーギアを取り出した(歯が欠けている)
☝ 分解してスパーギアを取り出した(歯が欠けている)

 3DCADと3Dプリンタを作ってロボットの歯車を設計・製作している人をみたのがきっかけで、ラジコンの歯車を作ってみたい思いました。

2. FreeCADでギア設計するには

 FreeCADではギアを設計するための機能を、標準で使えることが分かりました。(無料ソフトなのにすごい)

 この機能は「Part Design ワークベンチ」の中に入っており、「Involute gear」という名前がついています。(下図参照)

 細かい操作方法はXsimの技術ドキュメント1を参考にして、設計作業を進めていこうと思います。

図:Involute gear 機能
図:Involute gear 機能

3. ギア設計に必要な理論

3.1. 歯車の大きさを表す指標

 歯車を選ぶときに何かしらの規格がないと、機械の設計をする上で不便です。ここでは、ラジコンの世界で用いられているピッチとモジュールについて整理したいと思います。

3.1.1. ピッチ(pitch)

 ピッチ2とは歯と歯の間隔のことで、記号は pitch の頭文字を取って $p$ で表現されます。歯車の基準円直径を $d$ [mm]、歯数を $z$ [枚] とおくと、ピッチ $p$ [mm] の定義式は、

\begin{equation} \label{p} p=\pi \times \frac{d}{z} \end{equation}

 ラジコンの世界ではこのピッチの他に、ダイヤメトラルピッチ3(Diametral Pitch:DP)が使われることも多いです。Imperial Pitch と書かれている文献もありますが同じ意味です。ダイヤメトラルピッチを $P$ [1/in] 、インチ単位の直径を $D$ [in] とおくと

\begin{equation} \label{DP} P= \frac{z}{D} \end{equation}

基準円直径の単位を $d$ [mm] と考えると、

\begin{equation} \label{D_in} D= \frac{d}{25.4} \end{equation}

(\ref{DP})式に(\ref{D_in})式を代入すると、

\begin{equation} \label{P_dia} P= \frac{z}{\frac{d}{25.4}}=25.4\times \frac{z}{d} \end{equation}

3.1.2. モジュール(module)

 モジュールの記号は module の頭文字を取って $m$ [mm] で表現されます。モジュール $m$ [mm] は次式で定義されます。 \begin{equation} \label{mod} m=\frac{d}{z} \end{equation}

3.1.3. ピッチ(pitch)と モジュール(module)の関係

 (\ref{p}), (\ref{P_dia})式に(\ref{mod})式を代入することで、次の関係式が得られます。

\begin{equation} \label{p_using_mod} p=\pi \times m \end{equation}

\begin{equation} \label{P_using_mod} P= 25.4 \times \frac{1}{m} =\frac{25.4}{m} \end{equation}

 

3.2. RCの世界で使われているピッチとモジュール

ラジコンのピッチ・モジュールについて記事を書いている方4や、川田模型のホームページを参考にして、ラジコンに使用されているモジュールとピッチを表に整理してみました。

表:ラジコンの世界で使われることが多いモジュールとピッチ

モジュール $m$

(Metric Gear Pitches)

ダイヤメトラルピッチ $P$
0.4, 0.5, 0.6, 0.8, 1.0 32, 48, 64

 ラジコンのギアでは、48, 64ピッチのように表現されることも多いのですが、FreeCADではモジュールを使って設計をします。

 そこで、(\ref{P_using_mod})式から、ダイヤメトラルピッチをモジュールに換算します。0.8モジュールと32Pは互換性がある5,6と言われているので、32Pをモジュール $m$ に換算してみます。(\ref{P_using_mod})式を使うと、

\begin{equation} \label{32P_to_mod} m = \frac{25.4}{P} = \frac{25.4}{32} = 0.7938… \simeq 0.8 \end{equation}

 計算結果を見ると、0.8モジュールと32ピッチはほぼ同じと考えられます。

 この他にも非常に似ているモジュールとピッチがあるみたいですが、摩耗が起こるので使用しない5,6ほうが良いみたいです。

3.3. 欠けたギアからモジュールを計算

 壊れた歯車をもとに設計したいという場合には、モジュールの値を求める必要があります。そこでその方法を調べてみることにしました。

 調べた結果、壊れた歯車の歯数と歯先円直径(歯の先端部分の直径、一番大きい直径)を調べればモジュールが計算できることが分かりました。歯車の歯数を $z$、歯先円直径を $d_a$ [mm] おくと、モジュール $m$ [mm] は、

\begin{equation} \label{mod_using_da} m = \frac{d_a}{z+2} \end{equation}

 この式は歯車メーカー(RONSON GEARS)が公開している技術ドキュメント7に記載されていたものです。ちなみにこの計算を自動でやってくれるWebページ(RC Gear Calculator)を作っている方もいて凄いなと思いました。

 色々な人が情報を発信してくれていたので、何とか歯車の設計ができそうです! ありがとうございます!

4. 関連記事

5. 参考文献


  1. XSim 技術ドキュメント「FreeCAD インボリュートギア・ツールを使って歯車を作る」、( https://www.xsim.info/articles/FreeCAD/HowTo/Create-gears-with-Involute-Gear-tool.html↩︎

  2. 塚田忠夫・舟橋宏明・野口昭治 ほか著『新機械設計』、東京:実教出版、2019、167頁 ↩︎

  3. 日本機械学会 機械工学辞典「ダイヤメトラルピッチ」、(https://www.jsme.or.jp/jsme-medwiki/16:1007674↩︎

  4. Ameba ブンジsanのブログ「ギヤの04、06、48、64の違い検証」、( https://ameblo.jp/rc-kidori/entry-12596460897.html↩︎

  5. RADIO CONTROL INFO 「All About RC Car Gear Pitches – Why are there so many?」、(https://www.radiocontrolinfo.com/rc-car-gear-pitches/↩︎

  6. Roger’s Hobby Center 「R/C Gearing 101」、(https://rogershobbycenter.com/rc-gearing-101↩︎

  7. RONSON GEARS 「spur-gear-formulation-calculations」、(https://ronsongears.com.au/wp-content/uploads/2018/05/spur-gear-formulation-calculations.pdf↩︎